本文へ移動

ブログ

ブログ

No.106 人事評価制度の前にやるべきこと

2023-11-01
こんにちは、アオイパートナーズの齋藤です。

弊社は、クライアント企業の経営者だけでなく、現場の社員の皆さんと関わりながら経営改善や業務改善をサポートしていますが、その中で「人事評価制度」についての相談を受けることがよくあります。

社員からは、「どうすれば給料が上がりボーナスをもらえるのかわからない、これではモチベーションが上がらない」という声が多く聞かれます。
経営層からは、「社員のモチベーションを上げて業績を良くしたい、
何をすれば評価されるかを明確にすれば社員は頑張るはず、だから人事評価制度を作りたい」
というような相談を受けます。

社会的にも働き方改革や賃上げがフォーカスされ、
大手企業や一部のベンチャー企業などでも給与・報酬アップが報道される中で、
社員が「うちの会社はどうなっているのか?」と疑問を持つことも時代の流れだと感じています。
ですから、経営者が本気になって人事評価・報酬制度を構築・見直ししようと考えること自体は、
とても良いことだと思います。

しかしながら、人事評価制度で社員のモチベーションを上げようとか、
社員を育てようと考えるのは筋が違うと、私は思っています。
巷では、「人事評価制度で業績を上げる」とか「人事評価制度で人を育てよう」といった
書籍やネット記事もよく見かけますが、人事評価制度にこのような効果を期待するのには違和感を覚えます。

なぜそう思うのかというと、業績(売上・利益)が上がる、モチベーションが上がる、人が育つ、
これらが実現するのは人事評価制度ではない別の要因の方が圧倒的に大きいからです。
人事評価制度が機能しないというわけではなく、別の要因を整えることをせずに、
「評価制度を導入すれば、モチベーションが上がり、業績も上がり、人も育つ」と
期待することは間違いだということです。
業績を上げる、モチベーションを上げる、人を育てる施策が他にちゃんとあって、
それらを阻害せず望ましい行動を促進することが、評価制度の機能だということです。

社員が求めている評価制度のあり方と、会社が作ろうとしている評価制度のあり方は違うものです。
例えば、昇給や賞与にしても、会社としては人件費総額の限界があります。
いい評価だから給与や賞与がどんどん上がるみたいな評価制度をつくることはできません。
必然的に、総人件費の中でのコントロールが必要になり、
人の出来不出来によってバランスをとっていかざるを得ない現実もあります。
また、社員が想像している以上に、厳しい視点での評価項目や要求水準を提示することが
必要な場合もあるでしょう。

それらは、逆に社員からすると、
「いい評価なのになぜもっと報酬が上がらないのか」とか「こんなことまでできないといけないのか」とかで、
モチベーションの低下につながってしまうことも想定されます。
せっかく作った人事評価制度なのに、社員が評価プロセスや評価結果に納得できず
モチベーションが下がり続けてしまうという残念な事実が、多くの会社で起きていることです。

人事評価制度の構築・見直しに着手する前に、売上・利益の向上、
モチベーションアップや人が育つ環境整備に取り組まなければなりません。

売上アップには、事業開発、商品サービス開発、マーケティング、ブランディング、
営業強化などの施策が必要です。
コストダウンには、業務改革による仕入・外注等の原価低減、
業務標準化による経費削減などの施策を愚直に実行するしかありません。

モチベーションアップや人が育つ環境整備については、
大前提として企業理念(ミッション、ビジョン、バリュー)やパーパスを明確に打ち出して、
日々の業務に落とし込んで、理解し実践する社員を増やしていかなければなりません。
現場が疲弊して問題が起きている業務プロセスは、
時には経営層が自ら旗を振って改革・改善を進めなければなりません。
さらに、上司に自分の役割を正しく認識させて、
部下から信頼される関わり方を要求していかなければなりません。

会社が目指すことや大事にしたいことは何なのか、顧客に対してどんな価値を提供するのか、
どんな業務をどのように改革・改善するのか、上司は部下にどのように関わっていくのか、
などの施策を整えて実行する方が先です。
これらのことが整っていない中では、人事評価制度として社員が納得できる評価項目や要求水準、
評価プロセスを提示できるはずがありません。

まともな社員が評価してほしいと考えるのは、給与・報酬もさることながら、
自分の仕事ぶりをちゃんと見てほしい、その上で適切な評価をしてもらって
会社とともに自分も成長したい、ということだと思います。
このような社員のモチベーションを下げないことが、人事評価制度の最も重要な機能だとも言えるでしょう。

その思いに応えるためには、本来なら社長自身が全社員の日々の仕事ぶりを真剣に見ていければ理想ですが、
現実にはそれができない。
そうであれば、上司である管理者を社長が育てていくしかありません。
社長は社員にどんな言動や姿勢をとってほしいのか、
部下から信頼される上司になるために部下とどのように関わっていくのかを管理者に伝え続け、
管理者がそれを実行できる仕掛けや仕組みを作っていく必要があります。

業績向上もモチベーションアップも人材育成も、人事評価制度だけでは実現しない。
これらのことを念頭に置いて、あらためて自社の人事評価制度について考えて頂ければ幸いです。