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No.128 高野山で「変えること」について考えた 

2024-10-15
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こんにちは、アオイパートナーズの久保田です。
先日、両親などとともに和歌山の高野山に行ってきました。
高野山は標高約800mの山上盆地にある宗教都市で、平安時代に空海(弘法大師)により修禅の道場として開かれました。
世界遺産に登録された『紀伊山地の霊場と参詣道』の構成資産に含まれています。

今回は、大門・壇上伽藍・金剛峯寺・奥の院など、代表的な場所を一通り回り、宿坊に宿泊しました。
宿坊では朝のお勤めに参加しました
(希望すれば写経や護摩行も体験できます)。
宿坊のお食事は精進料理です。

お食事では、お酒が禁じられているわけではなく、般若湯と呼ばれる日本酒やビールをいただくこともできます
(私たちも般若湯をいただきました)。
が、そこは精進料理、ゆっくりお酒を飲むためのものではありません。
また、量も多くはありません
(例えば、人にもよるかもしれませんが、お米は男性には腹7分目くらいの量に感じられました)。

精進料理とはそういうものなわけですが、
「お料理の追加はできますか?」
「ご飯のおかわりはできますか?」
と、なんと、同行者の一人が給仕にいらしたお坊さんに聞いてしまったではないですか!
「あっ!」と思ったものの、時すでに遅し。
止める間もありません。
給仕のお坊さんは、「すみません、お出ししたものが全てでございます」と申し訳なさそうにされていました。
いやいや、こちらの方が申し訳ないです…、と苦笑いしてしまいました。

ともあれ、お大師様(弘法大師様)は、おおらかに受け容れてくださっていることでしょう。
お大師様は、
「言を慎んで飲食を節し、足るを知れば不祥に勝つ」
(ことばをつつしみ暴飲暴食をせず、足りることを心得ておれば災いにも勝てる)
という言葉を遺されているそうです。
それは、「足りることを知る心をもつことで、幸福を感じられる」と、
人々の幸福を祈り説いてくださっているからこそのこと。
それなのに、苦笑いしてしまった私の心の小ささよ…と、逆に反省したのでした!

私が高野山に来て宿坊に泊まるのは2回目でした
(ちなみに、件の同行者は事前知識は持っていたものの、経験するのは初めてでした)。
ということで、私が精進料理をいただくのは初めてではありません。
ですので、精進料理はこういうものだと分かっていましたし、これが良いと感じていました。
私が感じる精進料理の良さとは何か。
それは、普段の食事では気にしないことの多い「素材そのものの美味しさ」に気づかせてくれること、です。
精進料理自体は、4つ足の材料(肉など)は使わず、お野菜や海藻、お豆などがシンプルに調理されています。
シンプルなお料理を、多過ぎない量で、じっくり味わう。
そうすると、お出汁も含め、とても丁寧に仕上げられているのが伝わってきます。
そして「素材そのもの」の穏やかで奥深い美味しさが口の中に、体の中に広がってくる気がするのです。
料理の奥深いお味は、ご飯そのものも引き立てていて、
「お米って美味しいんだなあ」と感じ入りました。

そんな風に、素材そのものの美味しさには、むしろ、ある種の贅沢さを感じました。
これが、「飲食を節し、足るを知」るということなのかもしれません。
そして、宿坊での食事で得られるのは、「食べ物」というモノだけでなく、
「精進料理を味わい、素材そのものの美味しさを感じ、飲食を節して足るを知る」という
コト(体験)の機会なのかもしれないと、改めて感じたのでした。
ですから、これからも、精進料理はこのようなものであってほしい。
そうでなければ、宿坊を体験することの価値が減ってしまうように思います
(ちなみに、料理人や食品メーカーの開発担当の、精進料理の対極にあるかのような
美味しさを追求するプロの仕事も感銘を受けるものであり、ありがたいものだと思います)。

一方、高野山においても、変わってきたもの、変えてきたものがいろいろあるでしょう。
お世話になった宿坊にも、炬燵があったり、エアコンがあったりしました。
宿坊によってはベッド付きのお部屋があったり、ウォシュレット付きのトイレが設置されたりもしているようです。
また、難路を踏破することなく、車や鉄道やケーブルカーで、より多くの人がアクセスしやすくもなっているのも、
高野山における変化といえるかと思います。
アクセスが容易になったことにより、仏の教えをより多くの人々に伝え広めて救済していけることになるわけで、
それは、寺院にとって何より大切なことでしょう
(政治的・経済的な事情もあるかもしれませんが)。

変わるもの、変わらないものがあり、変えるべきもの、変えてはいけないものがある。
宗教は、世の中や人々の変化に向き合いながら、伝統を守りつつ、革新を続けていく。
企業経営も同じですね。
市場や顧客の変化に対応すべく、変えるべきものを変え、守るべきものを守る。
では、何を守るべきなのか、変えるべきなのか、それらをどのように決めていくのか、実行していくのか、
そもそも決めて実行するために大切にすべきことは何なのか。
そんなことを、帰りの南海電鉄の車窓に広がる景色を眺めつつ、つらつらと考えていたのでした。